黒田五寸、春もいけそうだと書いてありましたが・・・?

埼玉県のNY様、ご質問ありがとうございます
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いつも良い種をご紹介下さり、ありがとうございます。
昨年こちらで購入したものは皆とても良く出来ました。これまでなかなかうまくいかなかったもの(ホウレンソウやニンジンなど)も含めてです。またおすすめ商品の「マンズナル」や「あごおち大根」小松菜の「あさげ」は、素晴らしいものが出来ただけでなく、味も本当においしかったです!種を播ききってしまいましたので、今年も又お願い致します。
ところで、夏播きニンジンの「黒田五寸」のサイトでの説明に、「春もいけそうです」とお書きになっていますが、これからすぐの種まきでも大丈夫そうでしょうか。実は昨年の種がまだ残っているのです。発芽率は落ちるかもしれませんが・・・。それともやはり春専用の種を準備した方がいいでしょうか。
大変お忙しい時期とは思いますが、ちょこっとだけアドバイスを頂けると嬉しいです。
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N.Y.様よりこのようなメールを頂きました。

品種の選択」、「種子の保存」、という点で重要なご質問だと考えます。お名前を伏せた上で引用させていただきました。NY様申しわけございません。

 

良い野菜ができたとのご報告、本当に嬉しく思います。種を買って頂いた上にこのようなお便りを頂くことはまさに「種屋冥利」につきます。
近所のお客様だと、コンテナいっぱいの野菜をよくできたからと持ってきて頂いたり、近県だとわざわざ宅急便で送っていただいたりします。ほんとうに有り難いことだと存じます。

さて、第一に人参の品種の選択について考えてみました。
一般地における(6~8月まきの)夏蒔と、(11~3月まきの)冬春蒔では品種に要求される性質は全く異なります。以下に少々詳しく書いてみます。


 

◆夏まきニンジン

①下降気温下での栽培なので、播種時に、高温発芽性を要求されます。高温乾燥でも発芽しやすいことが求められます。 また収穫は冬になりますので、在圃時に耐寒性が要求されます。当然吸い込み型が肩の寒痛みが少なく有利です。

②株間をやや狭くしながら間引き収穫を行なえばかなり長く圃場に置いておけるので土壌病害や生理障害に強く在圃性の長い品種が有利です。

③一般に夏場に積算日照や積算温度を稼げるので色が良く味もよい人参が多いので、より品質の良いものが求められます。

④トウ立ちの早晩はほとんど問題になりません。
※だから一般に品質の劣る(色が薄いなど・・・(^_^))晩抽系春まき品種を流用する必然性はまったくありません。


 

◆春まきニンジン
年内蒔はほとんどトンネル被覆下の栽培となりますので簡単なべたがけ被覆程度で栽培できる2~3月蒔を考えます。

①上昇気温下での栽培なので、播種時に低温発芽勢が要求されます。また急激な温度上昇下で肥大していきますので、裂根が少ない品種が求められます。
また収穫時が地温が高く、湿度が高い梅雨を経験しなければならないので、吸い込み型は有利ではありません。高温多湿で腐りにくいことが第一に要求されます。
※だから柔らか目の黒田系は不利です。 また、(黒田系が全て吸込み性ではありませんが)、当店のスーパー黒田は吸込み性が強いので冬には有利ですが、梅雨は苦手なのです。

②一般暖地で(地温や湿度が高くなる)7月~8月に収穫をむかえる時期に、長く畑に置いておけるわけではありません。人参は少なくとも種まきから3ヶ月以上経たないと収穫できませんので、春まきの場合は生育が遅いのは不利です。3月~少なくとも4月上旬に蒔いて素早く収穫するためには早太り性に優れた早生系が有利です。
※黒田系は中早生~中生ですのでこの点でも不利です。

③④人参はグリーンプラントバーナリーという花芽分化、トウ立ちの性質を持ち、ある程度の大きさで一定の低温に晒されるとトウ立ちしてしまい商品価値がなくなります。
春まきは種まき後低温の時期が続きますので、必ず「時無し人参系」の血を引く晩抽系の品種でなければなりません。春夏兼用の品種でも晩抽性は春専用種に劣るのが現実です。
秋まきのホウレン草を春蒔きしてもトウ立ちしてしまうのと全く同じように、夏専用の品種を冬春に蒔くと十中八九トウ立ちしてものになりません。


一代目、F1スーパー黒田五寸が出た当初、「春蒔きしても上手くできたよ」と言うお客様がいらっしゃいましたので、ブログには「春蒔きもイケルかも?」と書き込んでいましたが、
二代目、F1スーパー黒田五寸EX(premium)は「夏蒔専用」性を活かしより高品質性を追求している品種なので、夏蒔に特化した方がよいという結論に達しております。

従いまして、スーパー黒田五寸の残り種子の春蒔きはオススメいたしません。

なお、この品種は特に選別が良く発芽勢が良いので密封冷蔵保存の上7月蒔されることをオススメいたします。また、春蒔きのニンジンについては播種時期も押し迫っております。当店の「春紅」の様な高温に強い時無し系の品種をできるだけ早く蒔かれることをオススメいたします。


 

◆種子の保存について
昔から、梅雨越しの種は蒔くものじゃない!と先代から耳にタコができるほど教えられております。

これは種子を保存することの条件として、低温が必要なこと以上に、湿度が低いことが大切だという教えに他なりません。

 

①長期保存に向く種とそうでない種子
専門用語で言うと「長命種子」とか「短命種子」とか言います。図体がでかい豆類などは時間の経過と共に種子水分が大きく低下しますので、一般に短命です。葱とかレタスとかパセリとかシソなどアブラナ科以外の発芽に時間がかかる種子も一般に短命です。高菜など強い休眠性を持つものはある程度時間がたった方が新種より発芽が良い場合もあります。大根、蕪、菜類は長く持ちますが、キャベツ・ブロッコリーなどはやや持ちが悪いです。一般に長持ちするアブラナ科もいろいろです。
本命のニンジンですが、今はほとんど流通しない毛付種子は比較的持ちが良いのですが、一般的な毛とりの種子は短命です。あまり保存には向きません。ましてやコート種子は水を加えて加工してありますので保存には全く向きません(原理的に!)。

 

②種子は青果物ではありません。低温だけが必要条件の全てではありません
水を与えて細胞分裂が始まり発芽するわけですから、種子は湿度の変化を常にセンサーで感知している状態だと考えるべきです。水分が多いと芽を出そうかな・・と言う気持ちになるし、乾燥すると芽を出すのを止めようとブレーキをかけます。もし水分が大きく変動するとどちらにハンドルを切るのが分からなくなるので種子はストレスをうけます。そして発芽力を徐々に喪失します。したがって、湿度の変化を抑え、あるレベル以下に低い湿度を保つことは非常に重要なのです。

市販の生石灰やシリカゲルなど乾燥剤は非常に有効です。
種子を保存するときは、まず乾燥剤などをいれた密封容器に入れ。二重袋の状態で冷蔵庫に保管する方法が有効です。直接種子袋を冷蔵庫に入れるのは感心しません。
さらに、取り出すときは密封容器が室温に戻ってから開封すれば結露による悪影響も防げます。

以上ご参考になれば幸です。