ホウレン草のベト病は玉葱には移らない!

ベト病を再認識しよう・・・というお話しです

5月27日、タキイ九州支店主催の勉強会に出席し、品種の説明と、最近の異常気象と病害対策について再確認して来ました。タキイの新品種などについては余力が残っていれば触れたいと考えていますが、まずは強く印象に残ったベト病の話に集中して書いてみることにしました。
一般の方が聞ける勉強会ではないですが、主催者に確認したところ特に公開してマズイ点はなさそうなので全てオープンに書いてみます。

 

アブラナ科は大きく三つのグループに分かれそれぞれのベト病菌は別のグループの野菜には感染源とはならない!

※ダイコン、カブ、白菜、小松菜、青梗菜、水菜、キャベツ、ブロッコリーカリフラワーなど秋冬野菜のほとんどがアブラナ科に属します。全て4枚の花弁を十文字に開いた菜の花と全く同じ花を付けますので十字花科ともよばれています。

 

意外にというか、ほとんどご存じないかと思いますので、
表現を変えてより印象強く表現するとこうなります。
①大根のベト病は白菜には移らない。
②白菜のベト病は蕪や、小松菜や水菜や多くの菜っ葉には移るが、キャベツには移らない。
③キャベツのベト病はブロッコリーには感染するが、大根には移らない。
※移る=感染罹病するという意味です!

ぐるっと一回りしましたが、組み合わせとしてその逆も正しく、数学上の組み合わせ3*2=6通りの全ての方向でもベト病は移ることはありません。

 

とても意外ですが、事実です。

 

上で述べた三つのグループとは
①大根グループ
②白菜・蕪・菜類グループ
③キャベツ・ブロッコリー・カリフラワー・ケールグループ
になります。

 

育種上もこれらのグループは染色体=DNAの構造が大きく違います。つまりお互いに花粉がかかってもハーフ=種間雑種はできません。DNAが違うので体を作るタンパク質も違った物になります。だから感染する病原体も感染される野菜のグループに対しユニークに感染するのであって、他のグループには全く影響を及ぼさない!という法則がなりたちます。

病原が感染して浸入したり菌糸を作ったり胞子を再形成するには被感染源の野菜たちを餌にしなければなりません。だから細胞レベル以下で親和性がないと病原菌それ自身が生き長らえたり増殖できないものだと考えられます。

アブラナ科の場合は上記のゲノム分類により、連作しても連作障害としてベト病が問題にならない野菜があるという事実は知っておいて損はありませんね。
大根を作ってベト病が発生しても、その後作に蕪を作ってもOK、そしてその後キャベツを作ってもベト病の観点からはOKです。

アブラナ科は
ジャガイモ、トマト、茄子、ピーマンなどのナス科や、胡瓜、西瓜、瓜、などのウリ科などに比べると連作障害に強い野菜と言われております。
ベト病の観点からは、やむを得ず連作をしなければならない場合は先の三つの違ったグループの野菜を組み合わせて栽培することが有効であると言えるでしょう。
ただし、あくまで今までの論点はベト病に関しては正しいですが、コナガ、ダイコンサルハムシ、キスジノミハムシ、ハイマダラメイガ、などアブラナ科を好んで食害する害虫やベト病以外の多犯性の病原体には無力ですので、これらの害虫や病原の餌となり増殖しないようにすることが最も大切です。そのためには、できるだけ栽培残渣を放置したり、スキ込んだり、あるいはぼかし堆肥などの材料とはしないことが望ましいと思います。

 

 

アブラナ科以外はどうか?
①玉葱のベト病はラッキョウやニンニクには移るがホウレン草には移らない!
②胡瓜のベト病は絹莢や豌豆には感染しない!
他にも同じ論理で容易に類推できますが、
白菜や蕪で発生したベト病がホウレン草には移らない。ホウレン草がベト病で全滅してもそのベト病の卵胞子が玉葱に感染することはない!ということです。
意外ですが、上記も論理的には全く正しいのです。とくに最後で述べた例は昨年多発したホウレン草、玉葱についての例です。
この勉強会で私が実際に技術担当に質問し確認いたしました。多数の聴衆(=プロの同業者)の中で挙手して指名されるのは大変恥ずかしかったですが、勇気をだして質問して良かったと思っています。そして、同意見であるという回答を得たので書く気になった・・・というのが発端なのです(^_^)。

 

実は以下のような質問をしばしば店頭にて受けます
「ハウスでスナックエンドウを作ってうどん粉病で真っ白になりました。後作に胡瓜を作りたいのですが、どのように消毒、あるいはどんな農薬を使えば、胡瓜にうどん粉病が移らずに栽培できるでしょうか?」と。
うどん粉病を先のベト病における文脈において置き換えても全く正しいので、「消毒の必要はありません!」さらには「同じハウス内で隣に作っても大丈夫ですよ!」と申し上げております。要するにスナックエンドウのうどん粉病原と胡瓜に感染するうどん粉病原は全く無関係なのです。
私も実例上全ての病害について確認はしておりませんが、少なくとも、「ベト病」の病原や「うどん粉病」の病原などは、宿主となる野菜の属するグループに依存してユニークであることは事実です。要するに違うグループの野菜の「ベト病」「うどん粉病」はお互いに感染しないということです。

 

 

ベト病の発生メカニズムに潜む防除法の要点
これはネットで検索すれば容易にヒットしますので書かなくても良いのかもしれませんが一番重要なことなので再確認しておきます。
①ベト病に感染し枯死した植物残渣上では生き長らえる餌がなくなってしまうので、ベト病菌は次世代を残すため環境の変化に耐えうる卵胞子(とても生存力が強い!)を作って土の中に混じり込み生き残ります。何年、何十年と生き残ります!そして条件が整ったら発芽して活動し始めます。
だから、まずはこの一時感染源たる卵胞子を畑にできるだけ増やさないようにすることがもっとも大切です。発病したらできるだけ速やかに抜き取ること、発病したトレーの苗は病斑が出ていない株も潜伏期間に過ぎないので、無理に定植しない等も必要です。ベト病の薬でも卵胞子自体を死滅させる力は無いか、非常に弱いからです。

さて、ベト病が発病したところにできる「かび」=分生胞子による他への感染は二次感染です。この二次感染対策が薬剤散布などとして多く語られておりますが、より重要なのはおおもとの一次感染対策であることは言うまでもありません。ベト病の卵胞子を如何にして持ち込まないかあるいは死滅させるかに今まで以上に注意を払うことが大切ではないかと思います。
②二次感染:卵胞子の発芽や菌糸の成長や分生胞子の形成には条件があります。
15℃位の低温、そして高湿度、さらに窒素過多などによる軟弱化です。
ホウレン草の場合ですとベト病に注意すべきは10月-11月、2月-3月の二回です。初夏から夏場では抽苔や萎凋びょうがより問題でしょう。真冬の12-1月はその前後に比べると露地では少なくなります。玉葱の場合は特に2月~4月頃、白色疫病やボトリチスなどと同様に発生が多くなります。
曇天や降雨が続きカラッとしない天気。施肥量が多すぎたり、密植や土壌水分の過剰によって体が軟弱化しているときは胞子が付着伸長しやすいので特に予防が大切です。
二次感染は土壌伝染と空気感染両方起こり得ますが、水分がないと野菜に浸入できないので主に降雨などにより土中の胞子が下葉の気孔などに泳いで浸入することで最初の発病が始まります。だから予防としては高畝にする。水はけを計る。空気の通りを良くし乾燥しやすくするために株間を広げる。マルチをして泥水の跳ね上げを防止する。などが有効な方法だと思います。

 

 

ベト病は防除すればするほど鍛えられ強くなる!
最近はホウレン草のベト病のレース抵抗性について非常に多く耳にするようになりました。ベト病に限らず、大腸菌などでも抗生物質が効かないスーパー耐性菌が最近非常に問題になっています(こちらの方がより深刻です!)。つまり薬で菌を殺そうとすればするほど、菌も種の生存がかかっていますから、突然変異により薬が効かない種が生まれ従来の菌を駆逐して取って代わるようになります。これは生きものとしての必然でしょう。

ホウレン草に話を戻すと、薬を使えば使うほど、しかも強い薬を使えば使うほど、強い耐性菌が出現し問題が深刻化します。さらに、耐病性の強い品種を使えば使うほど、同じようにベト病もサバイバルの必然性からより強力な菌が生まれる確率が高まってしまうのです。ホウレン草のR3以降の日本のベト病事情は正にこのようになっています。
昔のように、東洋系の美味しいホウレン草をプロの農家の圃場で簡単に栽培できる牧歌的な農業は既におとぎ話の世界になっているのです!

 

 

ベト病のレース抵抗性が深刻化しているのはホウレン草だけではない!
世界的に見るとホウレン草よりレタスのベト病のレース抵抗性が大問題になっているそうです。一見するとホウレン草ほど深刻化していないベト病のレース抵抗性も白菜などでは企業間で熾烈な競争となっているとのタキイさんのお話でした。「ある時期、タキイは白菜の○○品種のベト病レースで大失敗したんだ!」と漏らされていました。
また、玉葱でもレースの話は全く問題になってはいないようですが、今年多発した圃場などで、収穫残渣を安易にスキ込んだりしていると、このレース抵抗性が表面化してないだけで大問題となっているかもしれません。北海道や、淡路や、佐賀の田んぼの裏作などでは要注意かもしれません。

 

ベト病にまつわる、常識とはややかけ離れたお話しでした。
新品種の話は力尽きましたのでまた別の機会に致します(^_^)!
写真もたくさん写してきましたが、時間が無いのでとりあえず文章をUPします。
追々写真も添付していきます。

※トップの画像はタキイ種苗の「病害虫防除基準」より引用いたしました