種から育つメリット~豪雨災害に思うこと

赤道直下のような猛暑と日本特有の湿気で身も心も潜在能力の半分も発揮できない日々が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。このブログ、最低限月一回の更新は続けようと頑張っていましたが8月になってしまいました。お許しください。スーパーアップや加津佐13号玉葱種子の入荷が7月でしたので出荷準備作業に忙殺されておりました。今回は今年、お客様宛に出した「暑中見舞い」を引用させていただきます。

 

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暑中お見舞い申し上げます        平成30年盛夏

天災とはいえ昨今の豪雨に被災された皆様のご心情を思うとたいへん辛いです。TVは豪雨に削られた山肌を頻繁に映し出し、根こそぎ引き抜かれた流木と土石流が川を堰き止め被害を大きくしているのがわかります。T.K.様に指摘された一言が印象的だったのでご紹介します。

杉・檜など移植した森は流れる。しかし、椨・楠・クヌギなど種から育った自然にできた広葉樹の森は流れない!」根が地中深く伸びた森は水害に強いという意味です。

ここで思考は法蓮草に飛躍します。法蓮草は移植ができません。理想的には株間5cm以上で深さ60(最低でも40)cm根が伸びる必要があります。計算すると一株を育てる土は約1.5L。しかし同じ株間でも根の深さが15cmだと一株に割り当てられる土は0.37L。必要量の1/4でしかありません。法蓮草はそれほど横に根が張ることはなく、株間を広くしても一株に割り当てられる土は極端には増えません。一株に割り当てられる土が多いということは肥料密度が小さくても健全に育ち、施肥しても長時間肥料切れを起こさないことを意味します。
この様な訳で、法蓮草が畑を選び小松菜などより栽培が難しいとされるのは深い耕土を必要とするのが一因だと考えられます。同様に大根のような主根を伸ばす白菜や、低温期に肥大期が重なる極早生系玉葱なども根が深く張れるかどうかで成否が分かれます。
さて、(土壌の水分が適量であっても)肥料成分でリン酸は窒素(硝酸態)やカリに比べ1/30~1/10しか移動しません※。窒素やカリは水に溶けて根まで動いてくれるのに、リン酸は根の方が近寄ってくれない限り吸収できないという大きな違いがあるのです。つまりすべての肥料成分を効かせるためには量を与えればよいのではなく、根が四方八方(特に深く)張っていて受入れ態勢が万全な場合に限られるのです。

種を直播するのではなく苗の移植栽培が盛んになりつつありますが、苗の状態で移植したものはどうしても根域が浅くなります。浅い根の野菜は「杉や檜の森」のように自然の突発事故(台風、大雨、干ばつ、寒害、少日照・・・)に弱くなるのは偶然ではないと思います。

前作にイネ科の緑肥(特にトウモロコシが有効)を作ったり、物理的に深耕したり・・・、深く根を張らせる技術を今一度考える必要があるのではないでしょうか。

※土壌中でのイオンの移動速度 (Jungk、1991より)

硝酸(NO3-): 3.00mm/日

カリウム(K+): 0.90mm/日

リン酸(H2PO4-): 0.13mm/日